「この土地ならでは」の視点で、
街と調和するレジデンスへ
開発担当者に聞く
「ジェイグラン六本松レジデンス」
Jun Mitsui & Associates Inc. Architects
光井純 アンド アソシエーツ 建築設計事務所 株式会社
執行役員 関西オフィス 所長
大津 和久様
ーコンセプトー
土地の記憶を継承し、現代のデザインに昇華させる
コンセプトを決めるうえで大切にしたことは?
開発担当
デザイン監修をお願いしているJun Mitsui & Associates Inc. Architects(以下jma)様とともに、敷地周辺の環境や歴史を丁寧に調べることから始め、「谷ならではのデザイン」を大切にしました。
大津
坂道を上がったり下がったり、ずいぶんと歩きましたね。
計画地がある谷エリアは、かつて竹林や石垣があった地域であり、今もなお自然が色濃く残る場所です。
また、近隣には、武家屋敷の吉村家住宅(福岡市⽂化遺跡登録)が現存しています。今も住まいとして使われており、地域の誇りともいえる建築物です。場所の地歴を深く知ることで、その土地ならではの、そして今だからこそ実現できる建物ができるのではと考えました。
谷という土地の魅力を、どのように捉えましたか?
大津
六本松駅周辺が再開発で賑わいを見せるなかで、谷エリアは少し足をのばすだけで静けさと緑に包まれた閑静な住宅地です。高低差がある地形で、背後には緑地が隣接し、地域に愛されてきた石垣や竹林の面影も残っている。そんな独特の佇まいから、谷エリアを象徴するモチーフとして竹林や石垣は外せないと考えました。
ただ、どれも単なる再現ではなく、土地の記憶を大切にしながら、新しい価値を加えて現代のデザインに昇華させることを意識しました。
永く愛されてきた土地に新たな景観をつくる。地域に対する責任もありますね。
開発担当
そうですね。隣接する谷緑地では、近隣の方々が自主的に花を植え育てていらっしゃいます。この環境を慈しむ日々の営みへ敬意を込めて、自然環境や文化的背景を大切にするべきだと強く感じました。
そんな思いをjma様としっかり共有しながら、地域にも誇れる建物を実現できればと思っています。
ー外観デザインー
土地の記憶をつなぐ、品格ある佇まい

外観デザインへのこだわりを教えてください。
大津
計画地周辺は、戸建てが多く建ち並ぶ住宅街です。その環境に調和させるため、建物全体の外観を分節しスケール感を調整しています。圧迫感が出ないように、歩行者の視点での見え方に配慮し、建物の一部をセットバックさせたデザインとしました。
また、石垣を思わせる外構デザインを行い、敷地の高低差を活かしたデザインとしています。立体的に計画した植栽とともに楽しんでいただけると思います。
開発担当
六本松駅から歩いてくると最初に目に入る場所に、タイルの色調を変えた縦ラインを配置しました。経糸が象徴的な福岡の伝統工芸品である博多織をモチーフとしています。
その他に、ここもこだわっていますというポイントは?
開発担当
いろいろありますが、一つ挙げるとしたら外観照明でしょうか。「朝出かける時と、夜帰ってくる時で、風景に変化をつけたい」という発想から、光の当たり方や角度、明暗のバランスなど、かなり時間をかけてこだわりました。
大津
外構のデザインに合わせて斜めに光を入れることで、歩行者の目線からも立体感や奥行きが感じられるように。細部まで計算して作り込みましたね。照明デザイナーとも喧々諤々で(笑)。
開発担当
おそらく、このエリアでなかなか目にすることのない照明デザインができあがったと思っています。友人をご自宅に招く際にも、「照明デザインが凝ったマンション」と言えばすぐに見つけてもらえると思います。
もし、現地見学にお越しいただけるのなら、夕方から夜の時間帯がおすすめです。ライトアップされたデザインの変化を楽しんでいただけるはずです。
ー共用部デザインー
竹林の静寂に包まれるよう
エントランスも非常に凝っていますね?
大津
そうですね、エントランスのアイストップとなる壁面、エントランスホールやラウンジの壁面、さらにはラウンジとエントランスホールを区切る曲面ガラスにも谷エリアの風景をデザインに取り入れています。
開発担当
曲面ガラスは、金属織物を挟み込んだ京都の金属織職人による特注品で、とても丁寧な手仕事で仕上げられています。
曲面ガラスとは、なかなかお目にかかれないですよね?
大津
楕円形状のガラス面を構成するために、複数枚に分割した曲面ガラスを連続してつないでいます。かなりチャレンジングなデザイン設計でしたが、デザイン性も強度も兼ね備えたものが完成しました。
開発担当
この曲面ガラスのラインは、建物の内と外をゆるやかにつなぐ構成にもなっており、空間全体に一体感を持たせています。内側に金属織りが挟まれていることで、その先の空間がほどよく透けて見える。単に視線を遮るだけでなく、空間全体をやわらかく包み込むような境界線として機能するようデザインされています。
記憶に残る空間になりそうですね。
開発担当
一つひとつが凝ったデザインではありますが、決して主張し過ぎず、入った瞬間に「なんとなく落ち着く」「印象的だった」と感じていただけるような空間に仕上がったと思います。多分、建築のプロが見たら「これはすごい」と感動される空間デザインだと思います。
大津
土地の記憶を継承して現代的なデザインに昇華させつつ、職人の細やかな手仕事のなかにも「唯一無二」を感じてもらえるように。関係者の皆さまの熱い気持ちが集約されています。
ー植栽計画ー
季節をたのしみ、交流が生まれる空間づくり
植栽計画にもストーリーがあるのですね。
開発担当
植栽については、「コミュニティ形成の仕掛け役となる」ことをメインコンセプトとしました。
テーマの異なる庭を設けて、視覚的な心地よさだけでなく、自然に人が集まってきて同じ時間を共有できるような空間を心がけました。
大津
植栽を、ただ「見るもの」としてではなく、「関わることで交流が生まれるもの」としてデザインする考え方ですね。
「関わることで交流が生まれる植栽計画」いいですね。
大津
敷地内に、入居者様が自然と交流できるような空間を2ヵ所つくりました。シーンや気分に応じて使い分けができるように、それぞれに特徴を持たせています。
ひとつは「みのりの庭」。ベンチを設置し、週末に屋外で軽くランチをとったり、家族同士でピクニックのように過ごせる空間をイメージしています。ベンチの位置や視線の高さも、無理なく会話が生まれやすい関係性を意識しています。
開発担当
また、この庭には、「食べられる植栽」を採り入れています。計画時がコロナ禍だったこともあり、災害時に生活の備えとしても活用できるのでは、という発想から生まれたものです。
食べられる植栽にも、実はいろいろな種類があるのです。そのなかでも、栄養成分や食べられる季節で分類したり、花の色でアレンジをしたりしています。
食べられる植栽とは新たな発想ですね。もう一つの庭は?
大津
もう一つは「しあわせの庭」。こちらは落ち着いた雰囲気のなかで、ひとりの時間や気分転換ができる空間を目指しました。植栽には紅葉が美しい落葉樹を選定し、夏は木陰に、冬は日差しが入るように季節ごとの居心地の良さも設計に組み込んでいます。
開発担当
ここにも実は、おもしろい企画があります。庭全体にシロツメクサ(クローバー)を植えていて、自由に「踏んでいい、摘んでいい」庭としました。
クローバーは踏むことで葉が増える性質があるので、子どもたちが遊びながら自然にふれるには最適な植物です。一般的な分譲マンションでは「芝生や植栽は踏まないで」と注意されがちですが、ここではまったく逆の発想で「どんどん遊んでおいで」とおおらかに過ごせます。大人も子どもも楽しみながら交流が生まれる空間になればと思っています。
踏んだり摘んだりできるクローバーの庭、大人でもワクワクします。
開発担当
植えられているクローバーには複数の品種が混ざっていて、葉の形や大きさ、枚数が異なるものもあります。四つ葉を探す、摘んで王冠や小さなブーケを作るなど、日常の中に自然な楽しみや発見が生まれたらいいなと思っています。建物の中にも、クローバー柄をガラス面の衝突防止シールや、階数表示のグラフィックとして使うことも検討中です。
余談ながら、クローバーは新幹線などのグリーン車のマークでもあります。四つ葉のクローバーが幸運の印とされることから「利用者様に幸運が訪れますように」という想いと、「安全・安心」をイメージするグリーンに由来しています。JR西日本グループがご提供する住まいとして、共通の想いを表現できればという意図もあります。
どちらの庭も、ただ空間を整えるのではなく、人がそこにいたくなる、話したくなる。そんなきっかけを細部に仕込んでいます。
住民の方同士が自然に言葉を交わすような場面が、日常のなかで無理なく生まれていくきっかけになればいいなと思っています。
ーこの土地ならではの邸宅ー
特別な住まい「六本松の静邸」
聞けば聞くほど、お二人のものづくりへの想いが伝わってきました。
大津
私たちだけでなく、関係者の皆様の熱量を感じながら仕事を進めてきました。デザインを進める段階でも「こんなこと考えたんだけど、どう思う?」という新たな発想が投げかけられると、私もついつい「それなら、こんな付加価値をつけてみては?」と返したくなってしまう(笑)。
その結果として「この土地でなければできなかった、唯一無二の集合住宅」になったと感じています。
開発担当
大津さんをはじめとするjma様には、本当に丁寧なお仕事をしていただきました。この敷地と向き合い、デザイン・計画を積み重ねたプロセスそのものが結果につながっています。
本当は、細部に宿る工夫や質感など、まだまだ伝えきれない部分が多くありますが、ぜひ現地に足を運んでいただき、実際の空間を体感していただければと思います。

Jun Mitsui & Associates Inc. Architects
光井純 アンド アソシエーツ 建築設計事務所 株式会社
「街と建築のデザインを通して社会に貢献する」をステートメントに、建築・ランドスケープデザインなどを統合し、高い付加価値を生み出し続けているデザイン事務所です。